ChatGPTで薬歴の自動生成はできるのか | Tomoyuki Kato's Blog

ChatGPTで薬歴の自動生成はできるのか

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PharmaXというオンライン薬局のスタートアップで薬剤師・エンジニアとして働いています。Rails・React・TypeScriptなどを書きます。英語が得意でTOEIC900点・通訳案内士資格取得。主に薬剤師の働き方やプログラミング、英語学習について書きます。当サイトではアフィリエイトプログラムを利用して商品を紹介しています。
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いま話題のChatGPTで薬歴の自動生成をできるのかを検証してみた。

結論からいうと、かなりクオリティの高い薬歴を自動生成できる。

 

しかし実際に現場で使うには課題もありそうだなという印象なので、ChatGPTに作ってもらった薬歴の紹介をしつつ、課題感についてまとめてみる。

 

そもそも薬歴とは何か

 

僕のブログは薬剤師以外にもエンジニアが読んでいることも多いので、まずは薬歴ってなんぞやというところから説明しておきたい。

 

薬剤師はなぜ薬歴を書くのか

薬歴とは、患者さんの過去および現在の薬物治療に関する情報を記録・管理するための文書のこと。

 

例えば以下のような情報が含まれる。

  • 患者さんが現在使用している薬
  • 過去に使用した薬の情報
  • アレルギーや副作用の履歴
  • 処方箋の内容
  • 薬剤師による服薬指導の記録

 

なぜ薬歴を書くかというと、以下のようなメリットがあるからだ。

  • 患者さんの薬物治療の履歴を把握することによって薬物相互作用や重複投与、過剰投与などの問題を検出し、適切なアドバイスや対応を行うことができる
  • 薬剤師が行った服薬指導やアドバイスの記録を通じて、患者さんの薬物治療のフォローアップを行うことができる

 

現在の薬歴作成の課題

現在の薬歴作成にはいくつか課題があって、個人的には「薬歴の作成に時間がかかること」と「薬剤師によって薬歴の質にばらつきがあること」が特に問題だと思っている。

 

まず薬歴の作成になぜ時間がかかるかというと、薬剤師と患者さんの会話をSOAP形式でまとめ直す必要があるからだ。

 

SOAP形式とは何かというと、Subjective(主観的所見)、Objective(客観的所見)、Assessment(評価)、Plan(計画)の頭文字をとったもので、以下のような意味がある。

 

<Subjective (主観的所見)>

患者さん自身が感じている症状や問題を記録する部分。

例えば、痛みの程度や、気分の変化、食欲不振など、患者さんが伝える情報がここに記載さ。

 

<Objective (客観的所見)>

検査結果や観察による客観的なデータを記録する部分。

血圧、体重、検査値(血液検査、尿検査など)、画像検査(レントゲン、CT、MRIなど)の結果を記載する。

 

<Assessment (評価)>

SubjectiveとObjectiveの情報をもとに、患者さんの病状や薬物治療の効果・副作用を評価する部分。

問題点や改善が必要な点、治療の効果などを記載します。

 

<Plan (計画)>

評価をもとに、今後の治療方針や薬物療法の変更、患者さんへの指導内容など、具体的なアクションプランを立てる部分。

 

薬歴の質にばらつきがある問題に関しては、そもそも薬剤師としてどれだけ多くの患者さんの対応を経験しているかや優秀さによって書ける内容がかなり変わってくる。

 

また忙しい職場で働いていると薬歴を書く時間がなくて、実際の会話内容がかなり端折られてしまうなどの問題が起こっている。

 

ChatGPTで作る薬歴のクオリティが想像以上に高い件

 

先ほど紹介したような課題はあるものの、ChatGPTの力を借りればこれらの課題を解決できるかもしれない。

 

ChatGPTに薬歴を書いてもらってみた

前置きが長くなったけど、ChatGPTに薬歴を書いてもらってみた。

どのようにChatGPTに薬歴を書いてもらったかというと、以下のように指示を投げた。

あなたは日本の薬剤師です。
処方内容と服薬指導の会話をもとにSOAP形式で薬歴を書いてください。
<SOAP形式とは>
1:Subjective (S)(主観的所見): 患者さん自身が感じている症状や問題を記録する部分です。例えば、痛みの程度や、気分の変化、食欲不振など、患者さんが伝える情報がここに記載されます。

2:Objective (O)(客観的所見): 検査結果や観察による客観的なデータを記録する部分です。血圧、体重、検査値(血液検査、尿検査など)、画像検査(レントゲン、CT、MRIなど)の結果がここに記載されます。

3:Assessment (A)(評価): SubjectiveとObjectiveの情報をもとに、患者さんの病状や薬物治療の効果・副作用を評価する部分です。問題点や改善が必要な点、治療の効果などを記載します。

4:Plan (P)(計画): 評価をもとに、今後の治療方針や薬物療法の変更、患者さんへの指導内容など、具体的なアクションプランを立てる部分です。

<処方内容>
モーラステープL40mg 1日1枚 腰に貼付 70枚
ロキソニン60mg 1回1錠 腰が痛い時に服用

<服薬指導内容>
【薬剤師】
上野さん、お待たせしました。今日はどうされましたか?

【患者】
はい、子どもを抱っこしようとしたら腰がピキッといってしまって。。。それから腰の痛みが引かなかったので、クリニックに行って薬をもらうことにしました

【薬剤師】
それはお辛いですね。今回は痛みを和らげるための薬が2種類出ています。

1つ目がモーラステープというお薬です。

1日1回、1枚を腰の痛む部分に貼ってください。貼る際には、皮膚が清潔で乾いていることを確認してください。

貼った場所に陽の光が当たるとかぶれやすくなるので、外出の際は陽の光が当たらないように気をつけてください。

2つ目がロキソンという飲み薬です。
モーラステープを貼っても痛い時に1錠だけ飲んでください。

【患者】

飲み薬は1回飲んだらどれくらい間隔を空ける必要がありますか?

【薬剤師】

1回飲んだら6時間ほど服薬間隔を空けるようにお願いします。他に何か気になることはありますか?

【患者】

わかりました。ありがとうございます。他に気になることはないです。

【薬剤師】

お大事にどうぞ。

 

で、作られた薬歴がこちら。

すごくない?

 

 

たぶん僕がこの患者さんの薬歴を書くとしたら、こんな感じになる気がする。

【S】
腰痛でクリニックを受診【O】痛み止め2種類処方【A】腰痛【P】薬情を用いて用法用量を説明次回SE確認

 

ChatGPTの薬歴がかなり丁寧に書かれていることがよく分かると思う。

 

ChatGPTによる薬歴の自動生成をどのようにオペレーションに落とし込むのか

ChatGPTを使えば、かなりクオリティの高い薬歴を書けそうなことは分かった。

では、どのように薬剤師業務に落とし込めば良いだろうか。

 

ChatGPTによる薬歴作成の流れ

おそらくChatGPTの薬歴の自動生成は以下のような流れになるのではないだろうか。

 

<大まかな流れ>

  1. 服薬指導の内容を録音する
  2. 録音した会話を文字起こしする
  3. 文字起こしした会話とそのほか必要情報をChatGPTに投げて薬歴を生成する
  4. 生成された薬歴が薬歴ソフトに入力される

 

このオペレーションが実現できれば、薬剤師の薬歴記入はだいぶ生産性が上がるだろう。

 

ChatGPTを使った薬歴作成における課題

とはいえ、ChatGPTを使った薬歴作成を落とし込むには課題がいくつかあると思っている。

 

例えば、プライバシーの問題。

薬局での会話って特に配慮を要する個人情報なので、それをAIに食わせても問題ないのか。

 

仮にOKだとしてもだいぶChatGPTに投げる個人情報の加工処理だったり、患者さんの同意が必要だったりしてなかなかハードルが高そう。

 

もちろん技術的な問題もある。

薬歴ソフトによってUIが微妙に違ってくるけど、既存の薬歴ソフトと繋ぎ込みをできるのだろうか。

 

ちなみに今の文字起こしだと話者の識別が難しいという話を聞いたことがあったので、文字起こしのクオリティも薬歴の自動生成をする上で課題となりそうだと思っていたのだがそこは問題なさそう。

 

↓のように話者をきれいに分けなくてもかなりいい感じの薬歴を書いてくれた。

<服薬指導の会話> 上野さん、お待たせしました。今日はどうされましたか?はい、子どもを抱っこしようとしたら腰がピキッといってしまって。。。それから腰の痛みが引かなかったので、クリニックに行って薬をもらうことにしましたそれはお辛いですね。今回は痛みを和らげるための薬が2種類出ています。1つ目がモーラステープというお薬です。1日1回、1枚を腰の痛む部分に貼ってください。貼る際には、皮膚が清潔で乾いていることを確認してください。貼った場所に陽の光が当たるとかぶれやすくなるので、外出の際は陽の光が当たらないように気をつけてください。2つ目がロキソンという飲み薬です。モーラステープを貼っても痛い時に1錠だけ飲んでください。飲み薬は1回飲んだらどれくらい間隔を空ける必要がありますか?1回飲んだら6時間ほど服薬間隔を空けるようにお願いします。他に何か気になることはありますか?わかりました。ありがとうございます。他に気になることはないです。お大事にどうぞ。

 

 

 

ChatGPT時代における薬剤師の役割

 

最後に薬剤師が薬歴を書く必要がなくなった世界では薬剤師はどんな役割を果たすことになるのかを妄想して終わりにしたい。

 

患者さんの悩みに寄り添って言語化を手伝うこと

ChatGPTにクオリティの高いAssessmentやPlanを記載してもらうには患者さんの情報が必要だ。

 

そこで薬剤師が患者さんの悩みに寄り添って言語化を手伝う役割を担う。

 

薬剤師が患者さんとの会話を通じてより多くの情報を引き出すことで、より質の高いAssessmentやPlanにつながるようになるはずだ。

 

 

AIが賢くなるようにサポートすること

AIは薬剤師が薬歴を作るのを助けることができるが、ナチュラルにデタラメな情報を記載することもある。

 

一方、薬剤師はAIの作った薬歴を見て、間違いがないかどうかを確かめたり、足りない情報を追加したりすることができる。

 

薬剤師が自分の知識や経験を使って、AIがどんどん賢くなるようにサポートする役割を果たすのだ。

 

最終責任を取ること

仮にAIが間違ったPlanを提案し、それが原因で患者さんに有害事象が起こった時、それの責任がAIになるかと言われるとすぐそうはならない気がしている。

 

あくまでもAIはCopilot(副操縦士)で、あくまでも薬剤師の仕事を助ける存在であり、最終責任を取るのは薬剤師であり続けるはずだろう。(遠い未来はわからんが)

 

まとめ

まとめると、ChatGPTを使った薬歴作成は、これからの薬剤師の仕事に革命をもたらかもしれないけど、オペレーションに落とし込むにはいくつかハードルがありそうだなぁという話でした。

 

早く薬歴が自動生成される世界が来てほしい。

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