長いことリフィル処方箋に関する議論が続いていたが、とうとう日本でもリフィル処方箋が制度として導入されるようになるらしい。
僕自身、リフィル処方箋についての理解度があまり高くなかったので、せっかくの機会なのでリフィル処方箋とは何なのかについてまとめてみた。
海外のリフィル処方箋との比較についても書いてみたので参考になれば嬉しい。
リフィル処方箋は一定の期間内なら何度も使える処方箋のこと
結論から言ってしまうと、リフィル処方箋とは一定の期間なら何度も使える処方箋のことだ。
リフィル処方と分割調剤との違い
リフィル処方と分割調剤は似ているようで全く違う。
ざっくり言うと、分割調剤はほぼ薬剤師の裁量はないが、リフィル処方は薬剤師の裁量がかなり大きい。
90日分の処方を30日分ずつに分けて患者に渡す場合を例に考えよう。
ここで分割調剤は90日分の処方を発行して3回に分けて調剤するように医師が指示したとする。
そしてリフィルは30日分の処方を発行して、「このリフィル処方を繰り返し3回使っていいよ」と医師が指示したとする。
ここまで読んでみて「えっ、同じじゃん」と思ったかもしれないけど、それは違う。
分割調剤の場合は、「医師が90日分の薬を出す」と決めており、医師が重要な意思決定をしている。
一方、リフィル処方の場合は、30日ごとに薬剤師が患者の話を聞いた上で、この薬を使い続けるべきかを判断するのだ。
今まで医師がやっていたことを薬剤師がやることになるわけなので、かなり責任が重くなるといって良いだろう。
リフィル処方箋導入よる患者のメリット
今までは薬をもらおうとするたびに、病院へ足を運ぶ必要があった。
しかしリフィル処方箋を1度もらいさえすれば、わざわざ病院に行かずとも同じ薬を何度も薬局でもらうことができるようになる。
慢性疾患を持っていて薬がほぼ変わらないという人にとっては嬉しい制度なのではないだろうか。
そして何度も病院に行かなくて良いということは、毎月かかっていた診察代もそのぶん少なくなるということだ。
患者のお財布にも優しい。
リフィル処方箋の患者デメリット
一方リフィル処方箋にはデメリットもあると思っている。
それは何かというと、薬剤師が症状変化の重大なサインを見逃して症状が悪化してしまうリスクが増えるんじゃないかということだ。
患者が病院へ行く回数が少なくなるということは、こまめに患者の経過観察をする専門家が医師から薬剤師へシフトしていくことを意味する。
僕もかつては薬局の現場に立って患者に接していたわけだが、ちゃんと経過観察をできるある程度専門性の高い薬剤師ってどれくらいいるのだろうか。
こんなこと言うと怒られるかもしれないが、今まで一緒に働いてきた薬剤師の中で「この人の専門性、本当にすごいなぁ」と尊敬できる人って数えるほどしかいないので、この点に関しては個人的にすごく心配している。
専門性に関する心配もあるが、薬の専門家としてのプライドのある薬剤師がどれくらいいるかも懸念がある。
仮に2回目のリフィル調剤はやめた方が良いと薬剤師が判断したとしよう。
そうなった場合、薬がもらえないと知りブチ切れる患者が一定数でてくること想定される。
患者にブチ切れられても、「NO」とちゃんと言って受診を促せる薬剤師がどれだけいるだろう。
患者の意見に押されて、「まぁいいか」と薬を渡しちゃったりしないだろうか。
今まで以上に薬の専門家としての意識を強く持って行動することを求められる制度なので、できる薬剤師とそうじゃない薬剤師でかなり差が出てきそうだなと感じた。
日本のリフィル処方箋の概要
日本のリフィル処方箋の特徴をを簡単にまとめるとこんな感じらしい。
【リフィル処方箋のざっくりまとめ】
*この情報は2022年1月時点の情報です
個人的に気になった箇所
- 投与量の限度が定められている医薬品(向精神薬とかのこと?)や湿布はリフィル処方箋では出せない
リフィル処方せんの対象薬と湿布や向精神薬を同時に処方したい場合は、処方箋を2枚に分ける必要があるっぽい。
患者はもちろんのこと、処方を出すクリニック、処方箋を受け取る薬局など全ての関係者にとって面倒そうなだなと。
「これはリフィル処方箋では出せない薬ですよ」という疑義照会や「処方箋なくしたんですけど、どうしましょう?」という問い合わせが多発するのではないか。
・リフィル処方箋により、当該処方箋の1回の使用による投与期間がxxx日以内の投薬を行った場合は、処方箋料における長期投薬に係る減算規定を適用しない
現行の制度では、1処方につき投与期間が30日以上の投薬を行った場合は、算定できる点数が少なくなってしまう。
けど「リフィル処方箋を出すなら、点数を少なくすることはしないで」ということらしい。
大きい病院は90日といった長期の処方箋を出していることが多い気がするので、リフィル処方箋を出すメリットは大きそう。
一方クリニックとかだと30日以上の処方箋をあまり出していないと思うので、リフィル処方箋を出すインセンティブがあまりないんじゃなかろうか。
湿布などと一緒に処方できないことも考えると、街のクリニックは今まで通り30日を目安に処方箋を出し続ける気がするなぁ。
リフィル制度は少しずつ改定されていくのだと思うが、最初はそこまで普及しないかもしれない。
- 保険薬局の保険薬剤師は、患者の次回の調剤を受ける予定を確認する。予定される時期に患者が来局しない場合は、電話等により調剤の状況を確認する。
患者自身でリフィル処方箋の原本を保管するようなので、1回目とは違う薬局で薬をもらう可能性がある。
違う薬局で薬をもらったら、1回目に薬をもらった薬局から確認の連絡が来るので、患者体験がけっこう悪そうだなと思った。
患者体験や確認のオペレーションのことを考えると、せめて電話じゃなくてLINEみたいな気軽に連絡できる手段は考えておく必要がありそう。
海外のリフィル処方箋と日本のリフィル処方箋の比較
海外のリフィル処方箋は日本とどう違うのだろうか。
調べてみたら、厚生労働省が簡単にまとめてくれていた。
これを見る限り、日本のリフィル制度とはいくらか違いがありそう。
リフィルの対象患者は海外とほぼ一緒
リフィル対象患者は日本と海外ともに慢性疾患の患者でほぼ変わらないようだ。
アメリカのカリフォルニアだけ規制がないらしい。
これって症状が安定していなくても同じ薬を飲み続けるならリフィルOKということなのだろうか。
ググっても分からなかったので、知っている人がいたら教えてくださいませ。
調剤可能期間が異なる
海外のリフィル処方箋は調剤期間が半年〜1年とけっこう長めに取られているようだ。
一方、日本のリフィル処方箋は3回まで同じ薬を出せるとだけ書かれているだけで、調剤可能期間に関する記載がまだない。
日本はこれから調剤可能期間を決めるのかも。
最初は短めにしておいて、制度改訂しつつ最終的には半年〜1年くらいに落ち着くのではないか。
リフィル処方箋の保管方法が違う
先述の通り、日本はリフィル処方箋を患者が保管するようなのだが、カリフォルニアとカナダは薬局が処方箋を保管するらしい。
日本の薬局はコンビニよりも多いらしいので、処方箋を紛失してしまうリスクはあるにせよ患者保管の方が利便性は高そうだなと思った。
「今回はお昼休みに会社の近くの薬局で薬をもらうか」みたいなことできそうだし。
ただ、カリフォルニアは薬局保管だけど処方箋の薬局間移動も可能らしい。
この薬局間移動が簡単にできるのなら、薬局保管パターンの方が紛失リスクもないので良さそうだなと思った。
海外はオンラインでリフィル処方のオーダーが可能
SAFEWAYというアメリカのスーパーマーケットは、オンラインでリフィル処方箋の薬を注文できるっぽい。
薬局番号と処方箋番号を入力すると注文できるみたい。
全米をカバーする民間会社が提供するシステムがあって、そのシステム経由で薬局へ電子処方箋が送られる仕組みなんだとか。
ちなみにイギリスも電子処方箋がメインで、モバイルアプリからオンライン注文できるっぽい。
日本はしばらく紙処方箋メインなのだろうけど、5年後とか10年後くらいにはこんな感じでオンライン注文をできるようになっていくんだろうな。
リフィル処方箋の導入によって薬剤師の働き方はどう変わっていくのか
今回リフィル処方箋について改めて整理すると、先ほどもちょろっと書いた通り、薬剤師はより専門性を求められているのだろうなと思った。
リフィルが導入されることによって、病院への受診頻度は下がっていく。
一方、患者は定期的に薬をもらう必要があるので、薬剤師との接触頻度はそこまで変わらないだろう。
つまり今まで医師がやっていた日々のモニタリングを薬剤師が代わりにやっていくことになるわけだ。
カウンセリングやバイタルサインの測定など医師がやっていたようなことを薬剤師がやらなければならないので、今まで以上に医療従事者としての責任が増していくことになる。
調剤だけやっていたいマンは、いよいよ危機感を持たないといけないと思う。
薬剤師の仕事はこういった仕事がメインになって、調剤は薬剤師の手からどんどん離れていくことになるはずなので。
終わりに
改めてリフィル処方箋について調べてみたけど、まだまだ問題が山積みな感じはするものの患者と薬剤師にとってはトータルプラスな感じがした。(お医者さんにとってはあまり面白い話ではなさそうだが)
リフィル制度が導入されることによって薬剤師の活躍できる場が広がりそうなので、薬の専門家としての職能を今までに以上に発揮していきたいですね。